テンカワン(tengkawang: Shorea spp.)は英語でレッドメランティ(Red Meranti)と言います。かつてラワン材という名前で合板用木材として日本に盛んに輸入されたフタバガキ科の樹木で、高さは50m以上、胸回りの幹の直径は2m以上にも達する巨木です。インドネシアのカリマンタン島、スマトラ島、マレーシアのボルネオ島に主に生育しており、豊かな森林の象徴でもあります。実は羽根つきの羽のような形が特徴で、羽の作用によってらせん状にくるくると回りながら落ちてきます。落ちるまでの時間が長いことで、風によって遠くまで運ばれやすいのではないかと言われています。
樹形が真っすぐで加工しやすいことから合板用木材の原料としても有用性が高いのですが、その実は栄養分を多く含み、特に油脂成分が豊富なため現地では昔からご飯に混ぜてバターライスにしたり、人間の皮脂と成分が似ているため皮膚の薬として用いられたり、また、36℃近辺まで溶けないので蝋燭の原料としても使われたり、チョコレートを作る際のカカオバターの代用油脂として使われたりして来ました。ただ、毎年は結実せず、いつ実がなるのか分からないため、安定供給が必要とされる産業用には向かないと言われていました。日本も90年代は500トン以上を輸入していましたが、今は原料の実を輸出することをインドネシア政府が禁じたこともあって、テンカワンオイルの輸入は確認できません。
テンカワンは豊かな森林の象徴というくらいですから、当然それが生育している場所は交通のアクセスがあまり良くない奥地が多いです。しかし、2004年から土地開発への海外資本の参入が自由化され、オイルパームプランテーションの開発が急速に進みました。その流れの中で数多くのテンカワンもどんどん伐採され、オイルパームに変わってしまったのです。
しかし2014年、オランウータンの保護のために今ある森を守ろう、そのためには住民にオイルパームに代わる収入手段が必要だ、とオランダ人の環境活動家であり企業家でもあるWillie smitsが西カリマンタン州シンタン県テンバック村にテンカワンオイルの搾油工場を建設しました。これまでテンカワンは西カリマンタン州の州都であるポンティアナックのWilmarの工場で搾油されていましたが、ここはカカオバターを搾ったり、キャンドルナッツを搾ったりする工場で、テンカワンオイルだけを搾る工場としてはインドネシア初のものでした。以下にその経緯を紹介した映像があります。
彼と同じような意識を持つ人々がインドネシア、特にカリマンタンにはたくさんいます。オランウータンが住めなくなるということは、そこの森林生態系、自然環境が大きく損なわれているということで、当然人間生活にも大きな影響を与えているのです。そういった人たちをこつこつとつないで2016年10月テンカワンネットワークが出来上がりました。
参考資料:海外の森林と林業No.35 1996 渡辺弘之 テンカワン(Tengkawang)(Illipe nut)について
more trees オランウータンの森再生プロジェクト
→森林が急速に消失していることがよく理解できます
WWF(世界野生生物保護基金) パーム油: 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの
→オイルパームプランテーションの社会や環境への影響が理解できます